古代天皇陵古墳は発掘するべきか:「天皇陵」(矢澤高太郎著)

「天皇陵」
矢澤高太郎著 中央公論新社(中公選書) 2012年刊
: 歴史
: 古代天皇陵古墳は発掘するべきかどうか。
著者は、読売新聞文化部の古代史・考古学を23年間担当してきた新聞記者。内容は、国内の宮内庁が管理している多くの古墳の歴史や現状を紹介。内容的に、学者の意見や説を取り上げながら自説も紹介している。学者の書いた古墳紹介では、”あーでもないこーでもない”とひねくり回し、”結局それでどうなるの?”という気持ちになるが、この著作は、我々一般人が読むと納得・理解できることが多く面白く読めた。
主な面白いと感じた点は、
◎被葬者が「ほぼ確実な古代天皇古墳」(神武から文武天皇まで)は用明、推古、舒明、、天智そして、天武・持統天皇墳墓程度。全国15万基の古墳のうち、被葬者を確定できるのは10基程。宮内庁の治定している古代の陵墓古墳の被葬者は9割以上が別人。
◎現在まで、新造・改造・変造された古墳は多い。例えば幕末から明治にかけて、雄略天皇陵は池を隔てた円墳と方墳をセットにして、前方後円墳に改造された。更にそれ以前では、平城天皇陵は元々前方後円墳だったが、壊され円墳の形に。
◎「巨大天皇陵は地震の巣」。地震の痕跡が明確に残っている古墳は多い。
◎明治のお抱え外国人技術者ウイリアム・ゴーランド(英国の冶金学者で大阪造幣寮の溶銅技師として16年間在日)は、日本の406基の巨石積みの横穴式石室を調査。ケルトの巨石文明との比較のため。因みに、日本アルプスの名付け親でもある。
◎三世紀中から六世紀末までの前方後円墳から、その後八世紀初頭までの方墳への形態変化には、蘇我氏による新たな身分制度の確立を目指した結果という説。蘇我氏系の大王陵や豪族の墓は方墳、非蘇我氏系は円墳。
等など。
戦後すぐの頃、一部の古代史学者が、仁徳天皇陵の発掘を、米軍の力を借り宮内庁に圧力をかける試みがあったようだ。結局一部の反対で実行できなかったそうだ。自分も、日本の古代史を明らかにするためには古代天皇陵を発掘することが、必須だと今まで思っていた。しかし、この本を読むとそのことが、揺らいできた。
著者の考えは、「天皇陵古墳の発掘は、日本人が日本人であることの自覚を取り戻し、確固たる国家感、歴史観を持つことが当たり前の世の中になったとき、そのときこそ、考えればよい」という考古学者故末永雅雄氏の言葉に近いと。確かに、古墳から出てきた事実が、我々の信じていたことと真逆だったりしたときの動揺や、最近の高松塚古墳やキトラ古墳の出来事を見れば我々は未だ古代の遺物の保存技術が不十分であることを考えれば「待てよ」となる。しかし、日本人は、日本人としての自覚や確固たる国家感は、国民性から何時の世になっても、持てないのではないかと自分は思う。私としては、発掘をし事実を認識し、そのことで日本人の自覚や国家感を確固のものとする手段として利用する方が得策だと思う。ただ、保存技術に未だ課題がありそうなので、それが確立するまでは待った方が良さそうだ。
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